来 歴


ことばの冠


冬の桜
この世でいちばん大きな冠を戴いて
天に直立する女神
透かし模様の遠い梢は
無数の短枝の線条となり
細い一本ずつが
どれもみごとに
幾つもの冬芽を掲げている
それら冬芽の宝石を
天蓋にちりばめて
あくまで高い世界を荘厳する桜よ

はりめぐらされた
桜の梢をなぞって
ほんとうの高さにたどりつくことを
私のことばが願わないわけはない
天際に近いあたりでは
最後の季節と
最初の季節とが
早くも寸分の隙なく結ばれている
やがて匂いたつ
うす紅色のことばの花芯を
堅固な鱗片が確かに支えている

だからあれは
開花の前にすでにして華麗だと
万朶のことばの内側にあって
花よりも確かに生きている
沈黙の季節だと

まだ存在しないものを見ようとする見方で
黙っている声を聞こうとする聞き方で
私の魂を
どこまでも駆りたててやまないもの
ことばとは
まさしくかくのごときもの
冬の桜よ

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